2006年03月22日
博士の愛した数式
もともと映画の宣伝を見て興味は持ったものの、そのまま放りっぱなしになっていたところに、Tpongさんのところで紹介されているのを見て、原作を手に取る気になりました。
「博士の愛した数式」 小川洋子
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交通事故の後遺症で、その事故以降の記憶が80分しかもたない(そういう障碍は実在するそうですね)数学「博士」と、主人公の家政婦「私」、それにその息子の間にかよう純粋な愛情が静かに語られていきます。その中に、本来小説とは無縁であるはずの数式が、まるで3人だけの秘密の想い出であるかのように美しく織り込まれていて、とても爽やかでかつ暖かい読後感を与えてくれます。
(その数式の部分、僕に言わせると、1から100までの和を求める式の部分で、ちょっと無理な展開と思えた部分もあるのですが、それは野暮というものでしょう)
ただ、読み終わった後で少し物足りなさを感じました。あまりにすんなりと読めてしまったというか....もともとそれほど長くない、むしろ短めの小説ではあるのですが、そういうことではなく....なんというか爽やか過ぎるというか....短い分、愛情が凝縮されていて、でもそれしかないんですよね。「私」からの視点で過去の「博士」との美しい想い出を語る形式になっているからでしょうか、「博士」や「私」の苦悩や葛藤について、ほとんど何も語っていません。「私」の前に家政婦が9人も馘になっているのが不思議なくらい。なんとなく上澄み液だけをすくって見せられたような、そんな浅さも感じてしまいました。それは作者の意図でもあるのかもしれませんが、僕としてはもう少し深みを加えたものを読みたかったなあ。
とはいうものの、通勤電車の中で途中まで読んで、仕事中、先が気になってしかたなかったということも、正直に告白しておきましょう。読んで損はない1冊でした。
P.S.
本書を読んでいて、そういえば僕にとって面白かったのは幾何だったなあ、と思い出しました。幾何といっても小中学校のときの算数ですから、パズルみたいなものです。何かの図形があって角Aを求めよとか角AとBが等しいことを証明せよとか、そういうの。ぱっと見ただけでは皆目わからないものが、たった一本の補助線を引くだけで霧が晴れたように明快になるというのが、たまらなく魅力でした。
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説明がなされていない部分については読み手の想像力に委ねているのだと思いました。この作品のスタンスではそれでよいのだとも思います。おそらく時間をおいて読み返せばまた違った想像が成り立つかもしれません。
数学だけでなくある時期から苦手意識を持ってしまった学科については、その「楽しさ」を伝えてくれる教師や書物に出会えなかったことが不幸でした。書物との出会いに関しては自分に帰することだとも思いますが、「退屈で無能な」教師とのそれは不幸なことですね。これに関しては正直なところツキに見放された高校時代でした。
Tpongさん、どうもです。
おっしゃるとおり、読み手の想像力に任せているのかも知れません。というか、きっとそうなんだろうと思います。
僕としては義姉との関係やオイラーの等式についてはそれでよいと思うのですが、やっぱり葛藤についてはもう少し深く掘り下げてもらいたかったなあと、やっぱり思います。それがないためにちょっと現実離れしすぎていて、まるでファンタジーのように感じるのは、僕のつたない介護経験によるところかも知れませんね。ファンタジーが悪いわけじゃないですが。
僕は幸か不幸か、教師に対して幻滅したこともなければ、憧憬(とは違うか)を抱いたこともないです。あ、大学の英語の教授だけは殴りたくなりましたけど(爆)
自分がなんで理系人間なのか、そのルーツはよくわからないです。少なくとも教師の影響ではないし、親の影響って感じもしないし...なんだろう...